初恋の甘い仕上げ方
今まで何もなかったなんてありえないし、あれだけ格好いい見た目で名前を知られたデザイナーなんだから、本人にその気がなくてもたくさんの女性が集まっていただろうし。
私が太刀打ちできないほど魅力的な女性との付き合いもあったに違いないけれど。
何故か今の私には、不安がまったくない。
翔平君が私だけを大切にしてくれ、愛してくれているという確固たる自信があったりもする。
だてに二十年近くを翔平君一筋で過ごしてきたわけじゃない。
翔平君は、ときにはわがままも言うし強引にことを運ぶという頑固さも持っているけれど、人を傷つけたり自分本位に我を通すことはないと、知っている。
昨夜だって、『一緒に暮らす』と高らかに宣言していたにも関わらず、やはりそのためには片づけなきゃいけない雑事は多いと改めて気づいたのか、延期宣言を追加した。
賃貸だとはいっても翔平君にも自宅があるわけだし、突然そこを放り出して我が家に住み着くわけにはいかない。
昨日は私のお見合い相手の会社を訪ねて「お見合いはなかったことにしてください」と言って頭を下げ、私の両親と兄さんから私との結婚を前提とした付き合いを許してもらい、興奮していたらしいし。
翔平君のことは無条件に信じられる。
勢いに任せて口にする言葉は翔平君の本音だろうけれど、その本音や願いをやみくもに行動に移すことはない。
だから、『一緒に暮らす』という言葉は彼がそうしたいと願う本音に違いないとはいえ、だからといって私の気持ちや周囲の状況を無視してまで推し進めることはないとわかってる。
私の戸惑いを感じてソファで私を抱きしめたままひと晩を過ごしたことを考えてもそうだし、私を傷つけることはないとわかっているから、たとえ過去に何があったとしても、そのことで翔平君を責めることはないし、落ち込むこともない。
長い付き合いを通して、翔平君の優しい面も、ずるい面も、ちゃんとわかっているから、大丈夫なのだ。
「なあ、そんなにライトがくるのが嬉しいのか?」
「え?」
「幸せそうな顔をしてライトを思い浮かべてるところ言いにくいんだけどさ」
「あ、うん……」
ライトのことを考えて気持ちをふらりとさせていたわけではなく、翔平君への想いをかみしめていたんだけど、私がかなり緩んだ表情を見せていたのは事実に違いない。