初恋の甘い仕上げ方
「商店街のセールのチラシのデザインが最優先だよな。それと駅前の料理教室のポスターも急いでるよな」
「うん。でも、商店街のチラシならほとんど仕上がってるし、商店街の会長さんもOK出してくれたから、大丈夫」
わざわざ車内で打ち合わせをする必要はないし、小椋君にはほかにも急いでいる仕事が多いはずだから、やっぱり明日は電車で行こうと思ったけれど。
小椋君はそんな私の気持ちを拒むように言葉を続ける。
普段の飄々とした様子とは違う押しの強さも感じて、戸惑ってしまう。
「とにかく遠慮するなよ。小学校時代からの仲なんだから、迎えに行くくらいどうってことない。それに、白石の新居に興味もあるしな」
「あ、うん。ようやく片付いたからそろそろ事務所のみんなを招待してもいいかと思っていたんだけど……あ、でも」
引っ越しのあとダンボールが積み上げられていたリビングを整理して、ようやく心地のいい空間が出来上がり、そろそろ、と私も思っていたけれど。
はっと思い出したのは翔平君のにやりと笑っている顔だ。
昨夜私の家に泊まった翔平君は、私の家ですぐに一緒に暮らすことを諦めたとはいえそのための準備を早急に始めると宣言した。
既に私の両親はそのことを了承しているらしいし、兄さんも「萌を泣かせるなよ」と言いながら、自分が涙を浮かべていたというし。
翔平君のことだから、早急と口にしたのなら本当にその通りに段取りをととのえるはずだ。
事務所の人たちに家に来てもらうとなれば、翔平君が我が家にいないときを狙うほうがいいのか、それともいっそ紹介してしまおうか。
でも、紹介するとなれば、私との関係はどう説明すればいいのだろうか。
恋人だと紹介するのは照れるし、うーん、悩ましい。
「白石?」
「え?」
「顔、やっぱり変だぞ。一度はおさまったのに、またにやけてどうした?」
「なんでもない、それににやけてないし」
向かいの席から私の顔を覗き込むように体を前に寄せてくる小椋君の視線を避けて俯いた。