初恋の甘い仕上げ方
振り返ると、いつからそこに立っていたのか別府所長がマグカップを片手に笑っていた。
「新居のソファの手配には、俺も一役買ったんだよ。あのソファを取り扱っている店のオーナーは俺の高校時代の同級生でね。映画のスタッフと美乃里に頼まれて、半年待ちの人気商品を拝みたおして融通してもらったんだ」
「え、そうだったんですか?」
「実はそうだったんだよ。俺だってそれなりに顔がきくんだ。のほほんとしているだけのデザイナーじゃないってとこ、たまには見せなきゃな」
細身の体を逸らせ、自慢げに笑っている別府所長を私はまじまじと見つめた。
「美乃里さんが所長と知り合いだって聞いてはいたんですけど」
「彼女が女優として駆け出しの頃、ドラマのセット作りに関わったことがあってね。そのとき以来の付き合いなんだけど。まあ、当時は僕も駆け出しで、修行の身同士、励まし合ってたんだよ」
「そうだったんですか」
「ああ。当時の仲間とは今でも付き合いがあって、その縁が大きな仕事につながることもあるし」
別府所長は、うんうんと頷き優しく笑うと、その笑みをにやりとしたものに変えた。