初恋の甘い仕上げ方
「美乃里からよく聞いていた『翔平を愛してくれるかわいい女の子』って白石さんのことだったんだね」
「へっ?」
「小学生の頃からずっと翔平君を愛し続けているんだって? たしかにモデルをしていたくらいの抜群の見た目だし、片桐のエースデザイナーって言われるほどの才能もあるし。うん、俺も翔平君はオススメだよ」
くつくつと肩を震わせ、楽しげに揺れる瞳で私を見つめられて、私はどう答えればいいんだろうかと口を開いたり閉じたり。
「白石のご両親が翔平君のお世話をしていたって聞いてるけど?」
「いえ、お世話なんてとんでもない。翔平君は高校生の当時から大人びていてしっかりしていたし」
「へえ。そんな大人の魅力に満ちた翔平君を愛しちゃったわけだね? 美乃里も萌ちゃんに翔平君のお嫁さんになってくれるなら嫁いびりなんて絶対しないってさ。良かったな、嫁姑の問題もクリアだ」
別府所長はそう言うと、それまでの肩を震わせる小さな笑いでは我慢できないのか大きな声をあげて笑い始めた。
事務所で仕事をしている人たちの視線が一気に私たちに向けられる。
「あの、所長? 嫁いびりなんて……その、ないです、えっと」
周囲からの注目と別府所長の笑い声を遮るように慌てても、そんなのどこ吹く風で、所長は気が済むまで笑ったあと何度か深い呼吸を繰り返してようやく落ち着いてくれた。
本当に、自由な人だ。
「美乃里、ずっと翔平君はいつになったら結婚するんだろうかって心配していたから、ようやくほっとしたんじゃないか?」
「そ、そうですか……」
ほっとしたのは美乃里さんではなく別府所長ではないだろうか。
目じりの下がり具合を見ればそれは簡単にわかる。
美乃里さんとの親しさはともかく、翔平君のことも気にかけているんだろう。
けれど、嫁いびりだとか翔平君の結婚と言われても、まだその対象が私だという強気な思いはない。
もちろんそうであればいいなあと願う気持ちは強いけれど、昨日から今日にかけての状況の変化には「嬉しさ」はあってもそれを大々的に周囲に触れ回るほどの確信はなくて。
「翔平君のお嫁さんに、」
なれそうなんですけど、まだ夢のようで……と続けようとしたとき。
私と別府所長の会話を向かいの席で静かに聞いていた小椋君の言葉がそれを阻んだ。