初恋の甘い仕上げ方
「翔平って、白石が小学生の頃から好きな男だろ? デザイナーの水上翔平。でも最近結婚が決まって白石は失恋確定で、それを吹っ切るためにお見合いするって言ってたよな?」
「え、あ……それが」
思い出すように呟く小椋君の声に、どう答えようかと口ごもる。
小学生の頃の、“リボン事件”以来、小椋君には私の翔平君へのしつこい恋心を何度も話している。
もちろん初めのうちは小学生のたわいもない初恋の悩み相談程度だった。
けれどその初恋が終わりを迎えることはなく。
話しているというより、愚痴を口にする私の落ち込み具合を受け止め慣れているせいか、いつしか私の口から翔平君の名前が出ようものなら同情に満ちた瞳を返してくれるようになった。
『片思い、ご苦労様』
そう言っては優しく頭を撫でてくれることもしばしば。
今回翔平君が結婚を決めたと聞いて衝撃を受けた私が一方的にぶつけた「とうとう、今度こそしっかり諦めなきゃいけなくなっちゃったよ」という言葉にも動じず受け止めてくれた。
きっと、翔平君と私の縁がつながることはないだろうと予想していたに違いないし、それは至極当然のことだ。
長すぎる初恋を思いきるにはどうすればいいのだろうかと、その方法すら浮かばず悩んでいた私を気遣い、飲みに誘ってくれたり、私が大好きなキャラクターのグッズをさりげなく机に置いてくれたり。
いつしか私たちはくされ縁という言葉でひとくくりにするにはもったいない関係を築いていた。
けれど、私が翔平君のことを忘れるためにお見合いをすると言ったとき、小椋くんはいい顔をしなかった。
というよりも、やめておけと何度も私に言った。
せっかく、次の恋愛に向けて前向きに動き出そうとしているのに、どうしてその気持ちに水を差すのだろうかと不思議に思った。
とはいっても、両親の顔をたてる意味もあり、私はお見合いをするために動いていた。
エステだってそのひとつ。
「白石、お見合いするんだろ? それなのに、どうして嫁いびりだとか翔平君のお嫁さんだとかって言葉が出てくるんだよ」
小椋君は不機嫌そのものの口調で私と別府所長に問いかける。
「あの、ね。お見合いは、お断りしたの」
……翔平君が。
心でそう付け足し苦笑する私に、小椋君は頷いた。