初恋の甘い仕上げ方
「ニットのセーターの襟元ぎりぎり。赤いキスマークがしっかり。絶対わざと見える場所につけてるな。俺も男だからよーくわかる。若い頃は嫁さんに怒られても怒られてもつけてたし。……え? 気づいてなかったのか?」
「あ、えっと、キスマークなんて、つけられたことないし、その」
別府所長がなぞったあたりを手の平で確認しても、それがわかるわけもなく、キスマークなんてどういうことだと焦ってしまう。
焦りながらも心当たりがいくつも浮かんでくるし、別府所長の笑顔は次第に大きくなるし。
「その赤いの、俺も気になってたんだけど、まさか翔平……?」
小椋君は私の首筋を凝視しながら力なくそう口にした。
私だって簡単に呼ぶことに慣れていないのに「翔平」と気安く呼び捨てにできる小椋君を羨ましいと、場違いな思いを浮かべる自分を横におしやり、小さく頷いた。
「あの、世の中には思いがけない展開ってのがあるみたいでね。一発逆転満塁ホームランとでもいうか」
あはは、と笑いながら首筋を手で隠す。
それがさらに小椋君の視線を引き寄せているような気もするけれど、気にしない振り。