初恋の甘い仕上げ方
あの日ぽろぽろ泣いていた私は、美乃里さんに抱き上げられ、優しい声でなぐさめられたっけ。
あのことは、これまで誰にも話したことはないし、美乃里さんも忘れているのかとくにそのことが話題にのぼったこともない。
私がまだ小学生だったそのとき、私は自動販売機の設計をしたい、いつか絶対にするんだと誓った。
今思い返せば、曖昧ながらも自分の将来を考えたのはあのときが初めてで、それ以来ずっと、自動販売機のことは頭にあった。
大学でそれに関する勉強をしたのもいずれ自分の夢を叶えるためだったけれど、結局その方面に縁はなく、こうして翔平君と同じ世界で仕事をしている。
たしかに当初の夢からはズレてしまったけれど、こうして翔平君の側にいられる未来を手に入れたのだから、小学生の頃の私も納得してくれるだろう。
「それにしても、やっぱり私はしつこいんだな」
翔平君を想い続けてきたように、自動販売機の設計をしたいとも長い間願っていた。
自分のことながら、そのしつこさに苦笑してしまう。
私のその表情を翔平君はどう受け止めたのか。
「長く今の仕事を続けていれば、いつか萌だって自動販売機に関わる仕事ができるさ」
翔平君は私の隣りに座ると、気遣うようにそう言って、頬をすっと撫でてくれた。
「もしかしたら、そのチャンスはすぐそばに……」
「え?」
「いや、何でもないんだ」
翔平君はひとり何かをつぶやいたあと、それを慌ててごまかすように声をあげた。
そして、すっと表情を変え、口元を引き締めた。
「萌、今、もしも……いや、いい」
「翔平君?」
私が自動販売機の話をしたせいで、気を遣わせてしまったのかと、申し訳なく思う。
翔平君は今でもまだ、私への複雑な思いを抱えたままなんだろう。
たしかに私は今もまだ自動販売機に関わる仕事には興味があるし、その話題になると敏感に反応してしまうけれど、それはきっとこれからも続くに違いない。
引きずっているわけではないけれど、子どもの頃から抱いていた夢はやはり特別で、心の中にいつまでも居座るに違いない。
けれど、結局こうして翔平君と一緒にいられればそれが私の一番の幸せなんだから、それを翔平君にわかってもらいたいなと、思う。