初恋の甘い仕上げ方
翔平君が今住んでいるマンションは賃貸物件で、五年前から住んでいる。
結婚したら広い家を買おうと考えていたらしく、私がこの家を買ったことを知ってショックを受けたと言っていた。
この間コンビニ帰りにマンションまで送ってもらったとき、どう見ても不機嫌だったのは「しまった」という思いからだったらしい。
私がひとり暮らしを始めたことを兄さんから聞いて「ようやく兄離れしたか」と喜んでいたらしいけれど、それは私が賃貸に住んでいるという前提があってのことで、まさか分譲物件を購入しているとは思わなかったと。
「間取りもいいし、住みやすいマンションだと思うけど、どうせなら、一緒に家を探したかった」
今も悔しそうにそう言って、私の頭をくしゃくしゃと撫でている。
撫でているというより、悔しさを紛らわせるような荒い動き。
「痛いんですけど」
少々激しい動きが私の頭を刺激して、思わず逃げ腰になる。
それに気付いた翔平君は、空いていた手で私の腰を引き寄せるとそのまま両手で抱きしめた。
「ちょ、翔平くん」
慌てる私に構うことなく、翔平君は突然私を抱き上げた。
そしてあっという間に翔平君の膝の上に横座り。
「翔平君、えっと、これはちょっと……」
恥ずかしすぎる。
目の前に翔平君の顔があって、私の腰に回された両手の力はかなり強い。
思わず離れようとする私の動きは簡単に封じられてしまった。
足をばたばたさせる私をさらに強い力で抱きしめた翔平君は、顔を私の肩に埋めると大きく息を吐き出した。
「翔平君?」
「よかった……」
「え?」
「間に合ってよかった」
ほっとしたような言葉を口にする様子はどこかはかなげで、その理由がよくわからない。
これ以上は無理だと思うのに、私との距離をもっと詰めたいのかいっそう強い力が込められて。
「翔平君、どうかした?」
嬉しいというよりも不安になった私は、顔だけをどうにか動かして聞いてみた。
間近にある翔平君の瞳は閉じられていて、どんな感情を抱えているのかがわからない。
けれど、必死で私をその腕に抱え込む様子からは、かなり切実な思いが感じられる。