初恋の甘い仕上げ方
その重苦しい様子を見ながら、私は口を挟むこともなく、続く言葉を待った。
「あの日、階段を落ちて怪我をして。特殊な仕事をしている両親を呼べないことを理由に、わざと樹に電話したんだ。そばに萌がいることがわかっていて、そして萌が俺を放り出してまで採用試験を受けにいくわけがないってわかっていながら」
「……わかっていながら、兄さんに電話した。そして、私が翔平君のもとに駆けつけたってこと?」
「あ、ああ。……見た目の出血ほど大した怪我じゃなかったから、急いで樹に連絡する必要はなかった。30分でも待てば、確実に萌は新幹線に乗ってるし、樹に連絡しても影響はないってわかってたけど」
「わかってたけど、それを待たずにかけたってこと?」
淡々と続く言葉に私は穏やかに反応する。
翔平君は、あの日の出来事を思い返しながら、つらそうに顔を歪めた。
「ずっと俺の側にいた萌を、何もしないまま手放すことはできなかったんだ。採用試験を受けて遠くに行くとしても、俺との関係をゼロにするのは許さないって、直接伝えて。できれば試験なんて受けるなって言って引き止めたかった」
翔平君は私の頬を撫でながら、私を見つめている。
「おかしいよな。八つも年下の女の子を手に入れたくて足掻いてる男なんて。気持ち悪いよな」
「そんなことない。翔平君はいつでも格好いい」
「そんなわけないだろ。萌の思い込みだ」
「あのね、何度も言ったでしょ。どんな翔平君でも私は大好きだって。あのとき命に関わる怪我をしなくてよかったし、こうして一緒にいられるだけで幸せだし」
「……幸せ?」
「そう。だって、私は今翔平君と一緒にいられて、おまけに私を手に入れたいなんて言われて、幸せじゃないわけないでしょ」
「お前……いつから男を喜ばせるようなそんな言葉を言うようになったんだ……」
私は頬の上にある翔平君の手を片手で掴み、自分から頬を押し付けた。
すりすりと何度も。
心なしか、翔平君の顔が赤くなって、照れているように見える。
それでもまだ翔平君の目の奥に不安が揺れていて、なんだか嬉しくなる。