初恋の甘い仕上げ方
「翔平君?」
「あ?」
「あ、の。えっと、次男だったの?私のお見合い相手の人」
「何? そんなに見合い相手が気になるのか?」
「そ、そんなわけじゃないんだけど。釣書をあまり見てなかったから、そうだったんだなと思って。単なる好奇心」
「ふーん」
怒りを露わに目を細め、翔平君はわざとらしく息をついた。
私の体をソファに沈めたその顔は、まばたきのたびに揺れるまつ毛でさえ触れそうな近さにある。
きゅっと結んだ口元がほんの少し斜めに上がっているのは、昔から変わっていないと気づいた。
こんなときだというのに、それをおかしく思った自分が妙に新鮮にも思える。
翔平君と並び側にいても、今までなら少しでもその時間が長くなるよう、そのことばかりを気にしていたのに、今の私には、その口元にそっと指先を這わせ、くすりと笑う余裕まである。
「お見合い相手、倉本さんだったよね。釣書はちゃんと見なかったけど、あのイケメンのお顔は写真でしっかり確認した」
「まあ、イケメンだな。超絶イケメンと言ってもいい」
「やっぱり。お見合いするはずだった私は一度もあのイケメンのお顔を見てないのに、翔平君が会うなんて、悔しい」
「イケメン、イケメンってしつこいんだよ。そんなに見たかったら会いに行けばいいだろ」
翔平君は、声を荒げてそう言うと、私の額を指先で弾いた。
「いたっ。そんなこと言って、翔平君、私が本当に会いに行ってもいいの? イケメンぶりにときめいてもいいの?」
額の痛みをこらえながら翔平君を睨むと、翔平君は思いきり顔をしかめた。
その顔にはこれまで見てきたどの表情よりも強い感情が乗せられていて、翔平君の心にかなり近づけたような気がする。
私より八年も長く生きていて、自分の感情を胸に収めることに長けている翔平君からここまでリアルな感情をぶつけられてドキリとするなんて。
きっと、少し前の私ならその表情にびくびくして、嫌われたかなと落ち込んだに違いない。
けれど、翔平君の懐が開き、そこに飛び込む権利をもらった私には、その言葉に含まれた嫉妬がはっきりと聞き取れる。
「会いに行きたければ行けばいい。だけど、俺のほうがあいつよりもいい男だって実感するだけだ。それでもいいなら行ってこい」