初恋の甘い仕上げ方






「行ってこいって言いながら、ここにすごく深いシワができてるよ」

弾む気持ちに素直になって笑い、翔平君の眉間を指先で何度か撫でた。

これは、翔平君が苦しんでいるときにできるシワだ。

翔平君が事故に遭い、私の就職に大きな影響が出たときにも浮かんでいたっけ。

長い時間近くにいたからか、それとも翔平君に愛されているという自信からか。

表情の変化の薄い翔平君の内面を、その目や言葉から、理解できるようになった。

「本当は行って欲しくないくせに」

「……ちっ」

「だから三度目はないって言ってるでしょ。たとえ私のことを考えてのことだとしても、自分の気持ちをごまかして私を手離そうとしたり、ほかの男性に私を譲ろうなんて思っても、もうそんなのだめだからね。翔平君が私と距離をおこうとするのはもうたくさん」

私の口調は思ったよりも強く、それに気圧されたような表情を見せた翔平君は、口をつぐんだ。

翔平君を追いかけるばかりで、自分の感情をあからさまに出すことのなかった私の変化に驚いているのだろう。

自分でも信じられないけれど、一度話し始めた言葉はとまらなくて。

「普段、なかなか本当の気持ちを言わない翔平君が口にする言葉は、全部本音だってわかってる。だから今まで私が期待するようなことは何も言ってくれなかったってこともわかってる。だから、こうして私を捕まえたのなら、二度と離さないっていうこともわかるから。何を言っても無駄だよ。もう、私は離れないから」

翔平君の目の中にあるほんの少しの不安を溶かすように、そう言った。

きっと、あの事故からずっと抱えてきた私への遠慮もその中にはあるのだろうけれど、この際それも溶かしてしまいたい。

「それに私が今の仕事で満足できるようになるまで待つっていうなら、還暦過ぎちゃうよ。奥が深い世界だっていうのは翔平君が一番わかってるくせに。だから、腹をくくってよ。嫉妬されるのは嬉しいけど、嫉妬に満ちた言葉よりも甘い言葉を言ってもらえるほうがいい」

自分の気持ちに素直になれば、次々と本音が口を突いて出る。

私って、こんなに上手に話せたんだなと、自分の新たな面を見つけたようで新鮮だ。

そして、そんな自分の想いをしっかりと聞いてもらえることは、とても幸せだと実感する。

ほんの少しの照れくささと、かなりの満足感。
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