初恋の甘い仕上げ方
翌朝、私はスマホのアラームに急かされ、眠いながらもどうにか起きた。
私と翔平君の結婚を祝うという名目の宴会が終わって二時間ほどの睡眠では体もなかなか目覚めない。
ベッドの中で休日出勤なんてさぼりたいと切に願ったけれど、今日の仕事は私のこれからの立場に影響するともいえる大きな案件だ。
さぼるなんてもちろん、遅刻だって許されない。
のそりと起き上がった私の動きに気づいたのか、隣りで眠っていた翔平君もゆっくりと目を開く。
「ごめん、起こしちゃった? 私はそろそろ仕事に行くけど、翔平君は寝ていていいよ」
「いや、送っていくから」
「え? 翔平君も疲れてるから、無理しないで。電車でも行けるし、向こうの最寄駅で小椋君が拾ってくれることになってるから大丈夫」
「は? 小椋? あの同期の男? そういえば、あのリボン事件の男の子だろ?」
そうつぶやいたかと思うと、翔平君は勢いよく起き上がった。
「そ、そうだけど、よく覚えてるね」
寝起きが悪いのか、翔平君の声も表情も不機嫌全開で、軽く舌打ちする様子は試験勉強で遅くまで起きていた中学生男子が朝お母さんに無理矢理起こされて拗ねているように見える。
か、かわいい……。
パジャマ代わりの白いTシャツがしわしわによれているのも、普段は自然に流されているのに、寝癖がついて四方八方に飛び出している短めの髪も。
そのどれもが新鮮で、私の目はくぎ付けだ。
いつもの整った姿ももちろん素敵だけど、どこか脱力気味の姿にもオーラを感じられるなんて、これはもう翔平君に惚れている私の弱点かもしれない。
そして、私だけの特権でもある。
「小椋って、実はあのリボンの男の子だって、この間言ってたよな。で、自販機のデザインを任された……。ちらほら名前は聞いてるぞ。小椋愁人。うちの事務所を蹴って別府さんの事務所に行った男」
眠そうな声ではあるけれど、小椋君のことが気に入らないのかフルネームを口にしたあと何故か舌打ちまでしている。
「翔平君?」
「小学校からの付き合いだからって、調子にのってんじゃないのか?」
「あの、しょ、しょう……」
低い声が部屋に響いて、私の体がぴくりと跳ねる。