初恋の甘い仕上げ方
何かを思い返すようにぶつぶつつぶやく表情は俯きがちで、目元に翳りを帯びている様は雑誌の表紙のようで……。
なんてことを思いながら、どこまで私は翔平君のことが大好きなんだろうかと恥ずかしくなる。
「……シャワー浴びてくる。いいか? 俺がちゃんと送るから、その小椋君に迎えはいらないってメールしておけ。いいな」
私のふわりとした想いとは真逆の強い口調で、翔平君は私にそう言うと、ベッドを降りて立ち上がった。
「あ、忘れるところだった」
翔平君は、バスルームに行こうと数歩歩いたところで振り返ったかと思うと、あっという間に私の目の前に顔を寄せた。
「一緒にシャワー浴びたかったら来てもいいぞ」
「え? そ、そんなの無理無理」
「だな。小悪魔な処女の萌にはまだハードルが高いか」
慌てる私にくくっと笑い声をあげると、翔平君は軽く唇を重ねた。
一瞬の触れあいだけれど、それだけで夕べ母さんたちが来るまでの熱のこもったあれこれを思い出した。
そして、再び翔平君を求めるように体がほてってくる。
それだけでなく、体全部が柔らかくほぐされたような感覚を覚えて一気に力が抜けていく。
「小悪魔な萌は捨てがたいけど、処女はもうすぐ卒業させてやるからな」
「……っそ、それは、もう、よろこんでっ」
あ……。
思わず出た大きな声に、私と翔平君は顔を見合わせた。
まるで居酒屋の店員のような勢いで言った言葉が何度も頭の中で繰り返される。
束の間静かな空気が流れ、呼吸も止まったかのように思えたあと、翔平君が私の頬を指先でするりと撫でた。
「その小悪魔ぶり、俺以外に見せるなよ」
……艶めいた声を私の耳元に落とす翔平君こそ、悪魔だ。
もし私がそう言ったらきっと、翔平君は「悪魔、上等」なんて言って喜ぶんだろうな。