初恋の甘い仕上げ方
そんな週末のある日、いつも同様泊まりにきていた翔平君が熱を出した。
テスト勉強のために、毎晩遅くまで起きていたせいで疲れがたまっていたらしい。
ほぼ翔平君の部屋となりつつあった二階の洋室のベッドで寝ていた翔平君は苦しそうだったけれど、週末以降も我が家にいてくれると思った私は密かに喜んでいた。
何度も翔平君の様子をうかがいに部屋を覗いていた私に、翔平君はオレンジジュースが飲みたいと口にした。
熱でぼんやりとした視線を向けられて、小学生の子どもながらにどきりと震えた。
『まかせてちょうだい』
翔平君の役に立つことが嬉しくて、私はすぐに母さんにお金をもらい家を飛び出した。
我が家の近所の自動販売機で買えるオレンジジュースが翔平君のお気に入りで、私は走ってそこに行ったけれど。
『無理だよ……』
自動販売機の前で泣きそうになりながら立ち尽くしていた。
手の中にある硬貨を投入口に入れようと背伸びをし腕を精一杯伸ばしても、その自動販売機は底上げされた台の上に置かれていて、当時の私の身長では届かなかったのだ。
飛び上がってみてもギリギリのところで届かない。
一旦家に帰って兄さんを呼んでこようかと思いながらも、そうなると翔平君をもっと待たせてしまう、でも届かない。
どうしようどうしようと自動販売機の前で悩んでいると、そこに見慣れた車がとまった。
すると、シルバーのワゴン車の後部ドアがスライドし、中から美乃里さんが降りてきた。
『萌ちゃん、どうしたの?』
見知った顔を見て安堵した私の涙腺は一瞬で緩み、涙を流してしまった。
そんな私に驚いたのか、美乃里さんは慌てて私に駆け寄ってきてくれた。
そう言えば、母さんが翔平君が熱を出したことを美乃里さんに連絡したと言っていた。