初恋の甘い仕上げ方
大きな賞を獲り、世間にその名を知らしめている翔平君と自分を比べるなんて、恐れ多いとわかっていても、やはり嬉しい。
「お疲れ様でした。今日の打ち合わせの内容を反映させて、早急に調整を入れたものを送りますね。月曜日の夕方になると思いますけど、大丈夫ですか?」
私はパソコンや資料を鞄にしまいながら、飲料水メーカーの久和さんに言葉を向けた。
宣伝担当の久和さんは、これまでいくつものヒット商品を世に送り出した有名な宣伝マンだ。
五十代前半だろうか、これまでの経験が感じられる仕事ぶりを間近で見ることができて、まだまだ修行中の私には勉強することも多い。
「大丈夫ですよ。月曜日は別件で終日出かけるので、いただいたデザインを見るのは火曜日の朝になります。それまでにデータを送っていただければありがたいです」
「わかりました。それまでに完了させて送っておきますね」
「今回試作をしたデザインで役員会の承認はおりてるんです。あとは微妙な変更だけですし、焦らずに手直ししていただければいいですよ」
久和さんは穏やかな口調でそう言って、手元にあるラベルの試作品を手に取った。
「もちろん商品の質が高くなければ売れることはないんですけど、まずは見た目で消費者の心をつかんで手にとってもらわないとどうしようもないんです。……このラベルは、いけると思いますよ」
うんうん、と何度か頷いて、久和さんは私に笑顔を向けてくれた。
「前回の白石さんのデザインも、気難しい役員連中は一発で気に入って即OKだったんです。季節ごとに限定デザインのボトルを投入しようと話が出たのも高齢化が著しい役員会で……いや、失礼」
高齢化という言葉に苦笑しながら、久和さんは「僕も片足突っ込んでるんですけどね」と言っている。
「片足もなにも、久和さんはまだ若いでしょう? それに、伝説の営業マンだって有名だし、僕は今回お仕事をご一緒させていただいてかなり舞い上がってるんです」
私の隣で資料をまとめていた小椋君が、少し興奮気味に口を開いた。
いつも前向きで仕事熱心な小椋君は、同期である私とは比べ物にならないほどの実績をあげている。