初恋の甘い仕上げ方



久和さんが今口にしたことも、小椋君を刺激したに違いない。

仕事を続けるうちに、単なるデザインではなく、「売るためのデザイン」というものの厳しさを知ることとなる。

商品の質とデザインと宣伝力がうまく働いてこそ、商品は売れる。

これに運とタイミングがかみ合えば、最強だ。

「久和さんが担当した商品の多くがヒットして、そして息の長い定番商品となるのは知っていましたけど、今回のこの商品もそうなる予感がして、わくわくします」

小椋君の熱い言葉に、久和さんは嬉しそうに笑った。

久和さんから見れば経験も浅く、子どものような私や小椋君にも丁寧な物腰と言葉遣いを崩さない姿勢には驚かされる。

そして久和さんは、穏やかな笑みを浮かべたまま、小椋君の言葉に答えてくれた。

「この限定商品もヒットするように、あの手この手で売り込みますよ。昨日情報解禁されたんですけど、現在販売中のこの商品のCMにモデルの三崎紗和さんが起用されるんです。もちろん新しいラベルの限定商品にも彼女が登場しますので、売り上げの一助になると思いますよ」

「三崎紗和さん……」

その名前に、私は小さく反応した。

高校生の頃にモデルの仕事を始め、30代に入っても尚女性からの人気が高い綺麗な女性だ。

専属モデルの契約をしている雑誌の売れ行きは他誌の追随を許さないし、ファッションショーでステージに立てば、そのオーラに観客は圧倒されると聞く。

五年ほど前から活動の幅を広げ、幾つかのCMにも起用されているし、テレビでもその姿をよく見かける。

そして彼女は、翔平君や小椋君と同じ大学を卒業している才女でもある。

才色兼備には敵わないと、ため息をついたことも数知れず。

彼女が羨ましくてたまらなかった。

どの世代からの認知度も、人気も高いと聞いた事がある彼女がCMに登場するとなれば、売り上げも期待できる。

けれど、私の心は何か重苦しいものにズンと居座られたようで、手放しで喜ぶことができない。

以前三崎紗和さんと翔平君と付き合っているという噂が世間を賑わせたことがその理由であるのは明白で。

そういえばそのあたりの真実は一体どうなっているのだろうかとふと思った。

翔平君との結婚が現実味を帯びている今、昔の恋愛を根掘り葉掘り聞くのもためらってしまうし。

でも、気になるし。





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