初恋の甘い仕上げ方
「口もと、なめても良かったんだけど?」
私にしか聞こえないささやきに、あっという間に体は熱くなる。
居心地悪そうに俯いた私を小椋君や久和さんたちが気にかけ、私と翔平君を交互に見やると。
途端、生ぬるい視線を一斉に投げかけられるのを感じた。
「ほんと。これまで見てきた水上翔平はどこにいるんでしょうね。これじゃ恋人にメロメロの単なるイケメンじゃないですか」
斉藤さんがうなるような声でそう言うと、久和さんは落ち着いた様子を崩さず頷いた。
「私がよく知る水上翔平とも、違いますね。知っている中で、今の彼が一番いい顔をしていますよ。それに単なるイケメンという言葉、言い得て妙ですね」
翔平君は、ふたりの言葉に口もとだけで笑みを返し、とくに何も答えなかった。
イケメンだと言われ慣れているのかな、きっとそうだろうと、ひとり納得する。
人気モデルの三崎紗和さんと並んだ姿を思い出しても、決して彼女に負けていない容姿を見せびらかすように笑っていた翔平君。
美男美女なんて平凡な言い回しだけど、それ以外思いつかないほどお似合いだったな。
過去を思い返しながら、同時に胸の痛みが溢れ出すのを覚悟しても、今回もそれほど苦しむことはない。
どうしてだろう、これまでなら翔平君の過去の恋愛を思い出すたび切なくて体が痛みを覚えたというのに。
思いを伝え合った効能なのかな。
私って、単純だ。
「萌」
ひとり脳内をフル稼働させて考えていると、翔平君が、テーブルの下にある私の手を握ってくれた。
私の膝の上で重なり合う手を見れば、大人げない照れくささを感じてしまう。
「……翔平君?」
そんな照れくささを隠しつつ、顔を上げれば。
「萌」
「うん……」
「呼び捨てに意味はないから。……萌以外」
私だけに聞こえる、小さな声が、再び耳元に落とされた。