初恋の甘い仕上げ方
「強引なのは、昔からだけど……」
私は目の前に置いてあるものを見ながら、肩を落とした。
強気で頑固な翔平君を、結婚は来年の春あたりでと、説得する自信もないし、私だって翔平君と早く結婚したい気持ちはもちろんあるから、このまま押し切られてしまいそうで揺れているし。
向かいの小椋君の存在を無視したまま、何度目かのため息を吐いた。
するとそのとき、私の目の前にコーヒーがふたつ並んで置かれた。
「このおかわりは、サービスしておくよ」
視線を上げると、マスターが大きな笑顔を私に向けていた。
仕事の合間に気分転換によく来る喫茶店。
二十席程度のこじんまりとした店内にはマスターが好きだというジャズが静かに流れていて心地いい。
デザインに煮詰まったときにはしょっちゅうここに来て、リフレッシュしている。
今日も、午後からの打ち合わせを終えたあとここに来て散々悩んでいるけれど、なかなか解決の糸口が見えなくて。
「マスター、ごめんなさい。コーヒー一杯で1時間以上居座ってるね」
私は時計を見ながら焦った。
「別にいいよ。それに、人生の重大な決断を俺の店でしてくれるなんて、わくわくするし。ゆっくり悩んでいいぞ」
「そ、そんな、ゆっくり悩むなんて、とんでもない」
「俺のコーヒーもマスターのおごり?」
小椋君がテーブルに置かれたコーヒーをひとつ手元に寄せながら口を開いた。
「まさか。今日は白石さんの記念日になりそうだから、そのお祝い。小椋君もこの店でこれと同じものを広げる日がきたら、コーヒーくらいもちろんおごってやる」
「あー。俺はまだまだですね……。それどころか彼女とはかなり前に……」
「ん? 小椋君、どうしたの? そんな暗い声出して珍しい。あ、さてはこれを見て小椋君も彼女と結婚したくなったとか? 綺麗な彼女だったもんね、早く結婚したいよね」
いつになく元気のない小椋君が気になって私は明るく声をかけたけれど、何故かその場には沈黙が広がった。
「え? どうかした? 私、何かまずいことでも言ったかな」