初恋の甘い仕上げ方
とにかく、こうして翔平君に頭を撫でてもらえばそれだけで気持ちは落ち着き、冷静に判断できるようになる。
今も、美乃里さんたちの事務所の話を聞かされて、さっきまで胸の中を巣くっていた重苦しい感情や心配事がかなり消えたような気がする。
翔平君と私の結婚によって美乃里さんたちの仕事に悪い影響がないのならば。
そしてこの先もっと、翔平君の仕事が充実して忙しくなり、知名度もあがっていくというのなら。
「今、結婚するべき?」
目の前の愛しい瞳に問いかけた。
その答えはもちろんひとつだけ。
「これからすぐに、役所に提出しに行こうな」
大きな笑顔と共に、翔平君は安心したようにそう答えてくれた。
わざわざ仕事を抜けて私の様子を窺いに来るほど私の決断を気にしていたのかと思うと、申しわけなさと愛されている実感がむくむくと体の奥底に生まれてくる。
私は手の中にあった印鑑をしっかりと握り、『白石萌』として最後に違いない大仕事にとりかかる。
そして。
私と翔平君の話を呆然とした表情で聞いていた小椋君に見せびらかすように。
私はゆっくりと、そして力強く捺印した。