初恋の甘い仕上げ方
長すぎる初恋を実らせて、家族が増えた。
今は産休中の仕事も、いずれ復帰して変わらず続けることができそうだ。
愛する人たちと歩む未来を思い描けばこれ以上の幸せはもうないと実感するけれど。
奇跡はそれだけでは終わらなかった。
“萌桃”の自動販売機のデザインが評価され、翔平君が以前獲った設計デザイン大賞の候補に私の名前が挙がったのだ。
ただ、受賞するであろうと言われている本命は私ではなく、翔平君の事務所で働いている女性だとも耳にしている。
『大賞獲るのは時の運』
飄々と笑い、私を励ますでも慰めるでもない別府所長の言葉に力は抜け、その『運』とやらにすべてお任せだ。
たとえ大賞受賞に至らずとも、候補に挙がっただけでこれからの励みになる。
ますます仕事で結果を出し、その名前を世間に知らしめている翔平君には追いつけないけれど、私も私なりに、同じ世界をこつこつと進んでいる。
翔平君に自慢してもらえる妻であり、同業者であり、そして。
恋人であり続けたいと思う。
腕の中で眠る桃翔をゆっくりと揺らしながら、その重さにほほ笑んでいると。
チャイムの音が部屋に響いた。
モニターを見れば、嬉しそうに表情を緩ませている翔平君の姿があった。
桃翔を抱っこするのを日々の楽しみにしているお父さんのお帰りだ。
いつもよりも早い帰宅に頬が緩んでしまうのは、私が今も翔平君に恋しているからで。
翔平君を迎えるために玄関に向かう途中、ときめいているのか胸の鼓動が大きく跳ねるのを感じる。