初恋の甘い仕上げ方



肩にかけられていたピンクのタオルがそっと外され、すべてが終わったと気づいた。

「遅くなりまして、すみませんでした。お帰り、お気を付けくださいね」

美容師さんの言葉に頷きながらその手を見ると、彼女が手にしているタオルには見覚えがあった。

「あ、これですか? アマザンホテルからの指定で使っているタオルなんですよ。水上翔平さんのデザインで、客室と同じものなんです。肌触りが良くてお客様にも好評なんです」

やっぱり。

翔平君がデザインしたタオルだったんだ。

アマザンホテルのイメージカラーであるサーモンピンクはいたるところで使われているけれど、まさかホテル内のサロンでまでお目にかかるなんて。

翔平君は、デザイナーとして欲しい仕事を次から次へと手にしているんだな。

比べるまでもなく、自分との違いに改めて気づかされる。

「フレンチレストランのテーブルクロスも有名ですけど、このタオルも実はファンが多くて、今後宿泊されれば買えるようになるみたいです」

「そうなんですか」

翔平君への恋心に踏ん切りをつけるためにアマザンホテルでのお見合いを決めて、エステも同時にお願いしたけれど。

翔平君の影を何度も感じて、そのたび切なくなる。

気持ちを変えたくて短くカットしてもらった髪形は、我ながら似合っていると思うけれど。

鏡に映る自分の姿を見ながら思うのは、翔平君はどう思うだろう、似合ってるって言ってくれるかなってことだ。

そんなことを思う時点で、私の中の翔平君の存在はまだまだ小さくなっていないのだ。


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