初恋の甘い仕上げ方
「うん。ソファを運んでもらったあと、お寿司をとってうちの家族と一緒に引っ越し祝いをしたの。そのときの写真だけど?」
「はあ? 俺、呼ばれてないけど」
「……うん。呼んでないよ」
「俺の両親が呼ばれてるのに、なんで俺のことは無視なんだよ」
突然大きな声をあげた翔平君は、手にしていたフォトフレームをカウンターに置くと、不機嫌な顔を隠そうともせず私に視線を向けた。
「翔平君? あ、もしかして、お父さんとお母さんに会いたかった? このところ撮影が続いているからなかなか会えないって美乃里さんも言ってたし」
「……お前、それ本気で言ってる?」
「うん。だって、呼ばれなかったって拗ねてるし」
「拗ねるかよ。それに、とっくに30過ぎてる男が親に会えなくて拗ねるってひくだろ、普通」
「そう?」
「あー、もういい。とにかく、俺ひとりが萌の新居を知らなかったってことだよな」
投げやりにそう言うと、翔平君はするりするりと一歩ずつ私に近づき、私の前に立った。
「えっと、翔平君?」
今の会話の何が彼の地雷を踏んでしまったのだろうか。
躊躇しながらも、翔平君を見上げた。
「で、この写真を撮ったのは樹? それともおじさん?」
「……兄さん」
「ふーん」
翔平君は低い声でつぶやくと、私を囲うようにカウンターに両手を突いた。
あっという間に翔平君の胸が目の前にあり、さっきコンビニの前で抱きしめられたことを思い出した。
あのときも翔平君のシャツやらボタンを見ながらそれに触れたくて仕方がなかったっけ。
そのときと同様、鼓動がとくとくと鳴ってうるさい。
翔平君にも聞こえているんじゃないだろうか。