初恋の甘い仕上げ方
今日はやたら翔平君が私との距離を詰めてくるし甘すぎるし。
というより、この状況。
「翔平君、あの、どうしたの?」
「どうしたって? かなりむかついてるだけだけど。樹がこの写真を撮って? で、その様子をおじさんおばさんが見てたんだろ? 俺のことは無視して? 俺の家はこのマンションから歩いて十分もかからないって知ってるよな? 何度か樹と一緒に遊びに来たもんな」
「あ、うん。コンビニから歩いて五分くらいで、茶色い外壁の」
「それを知っていながら、俺抜きで引っ越し祝いとやらをしてたって?」
「あ、ごめん。別に仲間外れにしたわけじゃなくって、兄さんが、翔平君は恋人と楽しくやってるだろうし邪魔しちゃ悪いって言って」
「あいつ……今度会ったら殴る」
「翔平君?」
本気で怒っているとわかる低い声に、ぴくり、体をすくめた。
「樹は俺が萌に近づくのがよっぽど嫌なんだな。っていうか、いい加減、妹離れしろよな」
翔平君は、私を腕に閉じ込めたまま、ぶつぶつ言っている。
兄さんと翔平君のけんかというかじゃれ合いはしょっちゅうだから、とくに気にすることもないだろうけれど、本当に悔しそうな声でつぶやいている。
よっぽど私の引っ越し祝いを一緒にしたかったのだろうか。
翔平君は否定しているけれど、滅多に会うことのないご両親と会いたかったのかもしれないし、私たちだけで楽しく過ごしていたと知って寂しいのかもしれない。
恋人と一緒だと聞いて声をかけずにいたけれど、それは間違いだったのかな。
だけど、もしも恋人と一緒に来たらどうしていいのかわからない。
結婚を考えているという恋人に優しくしている翔平君を見るのは、正直つらすぎる。
あの日、もちろん翔平君を呼ぶことも考えたけれど、そんなことを考えているうちに呼ぶタイミングを失くしてしまった。
三崎紗和さんとふたりで私の家に来られても、笑える自信もなかったし。
でも、さっきのコンビニで聞かされた翔平君からの言葉を思い出して、わけがわからなくなる。
私と一緒に暮らすだとか、プロポーズだとか、たしかに言っていた。
そして、ずっと我慢をしていたと言っていたけれど、翔平君の口から出た言葉だとは思えない。