初恋の甘い仕上げ方
「萌」
翔平君は、私の耳元で小さくつぶやいた。
「萌が高校生の頃、志望大学をどうするか悩んでいただろ。萌の家族は行きたい大学が遠いならひとり暮らしも仕方がないって言ってたけど、俺はそれに反対したよな。女の子のひとり暮らしにいいことはないって言って、俺の目の届く場所に置いた」
「うん、わかってる……けど?」
当時の翔平君は何がなんでも私を遠くの大学には行かせないという決意を露わに見せ、家族の誰よりも私の大学受験に一生懸命だった。
志望大学を決める三者面談に顔を出してもいいとまで言っていたけれど、さすがにそれはまずいと兄さんが止めてくれた。
私のことに関しては普段の落ち着いた姿からは想像できない口やかましさ……というか人一倍熱い想いを持っていたけれど、それも今では笑い話のひとつだ。
当時を思い出して、口元だけで笑っていると。
「いよいよ就職活動が始まって、萌が希望している会社はかなり遠いって樹から聞いたときも、そんなの認めないって言ったんだ」
「え? 兄さんに?」
「そう。仕事帰りに樹に呼び出されて飲みにいって、そのときに知らされた」
予想もしなかった話にどう答えるべきかわからなくて、私はじっと聞いていた。