初恋の甘い仕上げ方
兄さんと翔平君が私の就職に心を砕いてくれていたのは知っていたけれど、何か特別な話でもしたのだろうか。
「えっと、翔平君?」
翔平君の両腕は私の背中に回されたままで、体が熱くなる。
「俺は、樹からその話を聞いて、「だめだ」って言ったんだ。なんでわざわざ遠くの会社に就職させるんだって怒ったし」
「えっと、そんなこと、聞いてないけど」
「だろうな。樹からはそのことをふたりで話したことは内緒にしろってきつく言われたし」
それまで私の肩にあった翔平君の頭がそっと離された。
あれ、と思っていると、いつの間にか私の顔の前に、整いすぎている顔があった。
「萌は子どもの頃から俺のことが好きで、俺のすることや言うことに影響を受けていただろ?」
「あ、うん」
影響どころか翔平君をお手本にして何もかもを決めていた、ということは周知の事実だ。
翔平君が学生時代にクラブ活動で続けていたテニスは、あまりにもそのプレイ姿が格好良すぎて思わず自分も入部した。
とはいっても、そんな甘ったれた動機で始めたテニスで花開くこともなかった。
地方選抜に選ばれた翔平君と違い、校内選抜にも選ばれなかった私は早々に自分の実力を知りマネージャーに転向した。
それはそれでいい思い出になっている。