初恋の甘い仕上げ方
そして、翔平君が時々さらりと描いてくれたイラストの素晴らしさに影響を受けた私は、自宅近所の絵画教室に通い始めた。
中学に入学したと同時に始めたその習い事は、意外にも私の中にあった才能を刺激し、翔平君が驚くほどの実績を残すことになった。
絵画コンクールでは入選を繰り返し、大賞を獲ったことも何度かある。
翔平君がきっかけで始めたとはいえ、自分でも努力を重ねたという自負もあり、その後の進学や就職に影響を与えた。
今デザインの仕事に就いているのは、翔平君を通じて自分の絵の才能を知ったことも関係しているかもしれない。
「俺にそのつもりがなくても、俺の言葉ひとつで萌は将来を考える。大学は、さすがに俺のあとを追ってこれなかったけどな」
私は肩を揺らして笑う翔平君をちらりと睨んだ。
「仕方ないでしょ。お勉強は苦手だったし、それに翔平君が通った大学は国内最高峰だもん。無理無理。翔平君が私に意地悪してるとしか思えなかった」
「まあな。きっと、萌が追ってこれないだろうと思って決めた大学だったし」
「そんな気がしてた。だけど、あまりにも無理だってわかりすぎて諦めるのも一瞬だった」
当時を思い出して小さく笑った。
すると、翔平君はすっと真面目な表情を浮かべて私を見つめる。
「だけど、結局は自宅通学圏内の大学に通うように俺が言って、そうさせたし。いつも萌の人生に必要以上に介入する俺を、樹は警戒してたんだ」
「兄さんが? そんなことないよ。私が翔平君のことを追いかけては跳ね返されてがっかりしているのを見ていつもからかってたし。第一、翔平君は私のことを考えていろいろ言ってくれたし」
「たしかに萌のことを考えてうるさく言ってたけど、萌のためだと言いながら、自分の目が届く場所に萌を置いて安心したいがための自己満足だった」
「でも、私……翔平君が構ってくれるのが嬉しかった」
翔平君の瞳が寂しげに揺れていて、思わず大きな声をあげた。
誉められることも叱られることも、相手が翔平君なら嬉しかったし、それが嫌だと思ったことはない。
面倒くさいと思ったことはあるにしても、翔平君が私のことを気にかけてくれればくれるほど、私は元気になっていたような気がする。