初恋の甘い仕上げ方
家族でもない翔平君が「認める」なんて、他人が聞けば違和感を感じるかもしれないけれど、兄さんが翔平君に頼み込んだらしいその状況を、私はすんなり理解できた。
私は翔平君のやることなすことの多くに影響を受けていたし、翔平君が、私のことを心配しかわいがるのは当然だと構えていた部分がある。
それを危惧した兄さんが翔平君に「黙ってろ」と言って釘を刺したのも納得できる。
「まあ、俺も萌に構いすぎてる自覚はあったから、渋々ながらも樹の言う通り、萌の就職に関しては黙って見守るつもりでいたんだ。今思い返しても、落ち着かない時間だったけどな」
翔平君はそこで言葉を区切ると、再び私を抱き寄せた。
今日一日翔平君から何度も抱きしめられて、相変わらずどきどきしつつもすんなりと体を預けられるようになった……気がする。
翔平君の体温や吐息にも少しずつ慣れて、緊張よりも嬉しさのほうが上回るようにもなった。
だから、今翔平君が口にした言葉が少しだけ震えているのも、感じた。
私の就職に関して口を出さないと兄さんと約束したことが、それほど苦しかったのだろうか。
翔平君の胸に頬を当てて、じっと考えたけれど、震えた言葉の理由はそれ以外思いつかない。
すると。
「そろそろ萌を解放してくれって樹に言われたら、他人の俺が何を言い返せるわけでもなかったからな。萌がどこに就職しようが祝ってやるつもりでいたんだけど。結局、あの事故のせいで萌の就職をだめにしてしまった。だから、萌が満足のいく仕事ができるまで、俺は見守るだけでいようって思ってたんだけど。帰りが遅いだとか言って、樹よりも口うるさかったよな」
「翔平君……」
肩にかかる吐息が、熱い。
これまで翔平君を追いかけていたのは私自身のわがままでもあるのに、兄さんはなんてことを言っていたんだろうかと申し訳なく思う反面、そう言わせたのは私だなと、過去を反省する。
もちろん、事故のことで翔平君を恨んだことはない。
もしもあのとき希望通りの就職を果たせたとしても、それが私の幸せにつながっていたのかどうかはわからない。
翔平君と離れてしまった生活を楽しめたのかどうかも不明だし。
こうして翔平君に抱きしめられている今を幸せだと思えるのだから、それでいいと思える。
少しずつ、仕事で認められつつあることも、今が幸せに思える理由のひとつだ。