初恋の甘い仕上げ方



翔平君が女性から人気があって、その隣にいられる立場をその誰もが欲しがっているというのも知っている。

恋人だと紹介された人はいないけれど、これまでに何度か翔平君の腕にぶら下がるように体を寄せて歩く綺麗な女性を見たことがある。

大通りを歩いていたり、たまたま入ったレストランで食事をしているのも見たことがある。

そのレストランはホテルの最上階で、食事のあとでふたりがどうしたのかなんて想像もしたくはないけれど。

翔平君が、聖人君子のような毎日をこれまで送ってきたわけではないと、わかっている。

けれど、私にはいつも疑うことのない愛情を注いでくれた。

翔平君の側にいると温かい気持ちになったし、まるでペットのようにまとわりつく私を邪険にするわけでもなく、それどころかその懐に入れて守ってくれた。

志望大学を決めるときだって、実の家族以上に私を心配して「実家から通える大学以外認めない」という一方的な命令を出されてむかつくこともあったけど。

それは、私の恋心に応えようとしてではなく、ただ私を妹のように思う愛情に基づく優しさからの言葉だった。

だから、翔平君が女性とどういう付き合いをしたとしても、そしてそれが本気のものではないとしても、私に口を出す権利はないけれど。

わかっているけれど、やっぱり。


「いい気分じゃない……」

ぽつり、つぶやいた。

「翔平君がもてるのも知ってるし、私はずっと妹みたいなものだったから。何も言えないけど、やっぱり嫌だ」

「ああ。これまでのことは変えられないし、30をとっくに過ぎたオトコの不甲斐なさだと思って諦めてくれるか? 萌が今悲しいと感じる以上に、これからは萌を大切にするし、萌だけを愛するから」

「あ、愛するって、ほ、ほんと?」

ここまではっきりと翔平君が想いを口にしてくれるなんて思わなかったし、それに私を愛しているなんて。

夢のようだ、というか、夢じゃないよね。

「しょうへーくん……」

「あーあ、泣きそうだな」

腰に回された手に力が入り、今にも唇が触れ合いそうな距離で翔平君が笑う。



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