麗雪神話~幻の水辺の告白~
『ヴァルクスにはなんでもお見通しね。どうしてかしら』

ヴァルクスは黒い髪を揺らしてくすくすと笑い、セレイアを抱き寄せた。

『…それは俺がお前を愛しているから。いつだってよく見てるからだろうな』

あたたかな腕のぬくもりに、じんわりと胸に安堵のようなものが広がっていく。

この人の腕の中にいれば、大丈夫。

なんだって、怖くはない。

『ヴァルクス…ありがとう』

ヴァルクスにそっと顎をつかまれ、上向かされる。

至近距離に、その端正な顔が迫っている。

甘い予感が、胸を震わす。

次に唇に訪れる優しい感触を想像して、セレイアは目を閉じる……。

しかし、その瞬間は訪れなかった。

『ヴァルクス…?』

名前を呼んで、目を開くと、ヴァルクスが外套に身を包み、槍を手に、セレイアに容赦なく攻撃してくる場面だった。

いやだ、と思った。

この場面は見たくない。

見たくないのだ。

『これ以上俺が罪を犯す前に…
お前の手で、殺してくれ…!!』

血を吐くような、ヴァルクスの叫び。

セレイアは、槍を構えて、彼に――――――

『いやぁぁぁぁぁぁっ!!』
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