麗雪神話~幻の水辺の告白~
がばりと身を起こす。

「………はぁ、はぁ」

荒い息をついた。

鼓動がばくばくとうるさい。

目の前に、ヴァルクスはもういなかった。あの笑顔も、優しい声も、何もかもが目の前から消え去っていた。

あれだけリアルに感じたはずのぬくもりはなく、体は外気で冷え切っている。

セレイアが現実を理解するまで、しばしの時間を要した。

そうだ。ヴァルクスは、もういない。

もう、この世界中を探しても、どこにもいない。

今は、旅の途中……。

―夢だった。そう理解したら、ぽろぽろと涙が溢れて止まらなくなった。

(ヴァルクス、ヴァルクス、ヴァルクス………!!)

ヴァルクスに会いたい。

一目でいい。

もう一度、彼に会いたい……!

セレイアの胸には今日花屋で聞いた話、死者に会えるという話が沈んでいる。セレイアの中で、それがにわかに浮上した。

彼に、会えるかもしれない。

きっと迷信だと、心のどこかが告げるけれど。

それでもどうしても会いたかった。

セレイアは身を起こすと、駆け出した。

(ジャングルの奥の水辺――――水辺を目指すのよ)
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