麗雪神話~幻の水辺の告白~
皇帝は常に誰かしらに命を狙われているから、護衛の仕事はけっこう骨だった。

今日も式典後、皇帝が幕舎にさがろうと背後を見せたところで、刃物を構えて突進してくる一人の兵がいた。

「皇帝! 覚悟!」

サラマスはやれやれとため息をつきたくなる。

どうせ紛れ込んでいたマラスの間者だろう。

サラマスは兵の腕を捻りあげると、みぞおちに拳を見舞ってあざやかに意識を失わせた。

「なぜ殺さぬ」

レコンダムは不満そうだ。

「消し炭にしてやればよいものを」

「俺の勝手だろ。
あんたさえ守れりゃいいんだろうが」

実はこうしたぞんざいな口調も、わざとそう演技している節がある。

あまり従順でもその本心を疑われるので、適度に口を悪く、適度に距離をとって接しているのだ。

その甲斐あってか、レコンダムは今やサラマスを信頼している―――ように見える。

皇帝と共に幕舎に戻ったサラマスは、プラトーが飲み物を手に入れに出て行くのを見送るなり、わざとらしくならないように話しかけた。
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