麗雪神話~幻の水辺の告白~
けれど。

(…まだだ。まだ情報が足りない。ヴェインの奴が皇帝と組んで何を企んでいるかも、奴の居場所も、何もわかっていないんだから)

まだしばらくは皇帝のそばにいることを、サラマスは決心していた。

―それにしても、皇帝と組んでいるはずのヴェインは、なぜ姿を現さない? まさか警戒されているのか。

そう思った時、幕舎の外がにわかに騒がしくなった。

なぜか兵たちが沸いている。

様子見に外に出たところで、すぐに異変に気が付いた。

荒野の向かいの敵陣が、紫色の深い霧に包まれている。

敵陣だけが。

「勝利の霧だ!」

「また我々の勝利だ!」

(霧――――――まさか)

そのまさかだった。

皇帝の幕舎に向かって、悠然と歩いてくる人影。

それは顔半分を銀の仮面で隠した、黒い外套の少年だった。
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