麗雪神話~幻の水辺の告白~
ヴェインは忌々しいものを見るように、こちらをにらみつけてくる。

「僕は紛れもなく“毒と霧の神”。知らないだと?
…不愉快極まりないな。
神は自分たちだけなどと、思い上がりにもほどがある」

ヴェインの答えに、サラマスは面食らった。

育界にも、明界にも、隠界にも、そんな禍々しい神がいないのは、事実なのだ。

「だが、天上界にそんな神は……」

「ふん、恥を知れ」

ヴェインはかなり機嫌を損ねたようだ。

これ以上聞いても、何も答えてくれないのは明白だった。

ちょうど皇帝と、飲み物を持ったプラトーが、幕舎に戻って来てしまった。

サラマスはじっと考え込む。

ヴェインは嘘をついたのだろうか?

―そうは思えなかった。では、ヴェインは本当に、サラマスと同じ、神の一人なのだろうか。

(俺たち神々が、知らない神……?)

謎は深まるばかりだ。

皇帝たちの話の流れからすると、ヴェインはしばしここに留まるようだった。

また機会を見て聞き出そうとしてみるか、それとも陰謀を未然に阻止するために彼を葬り去るか…。
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