麗雪神話~幻の水辺の告白~
「セレイア…そんなに、怯えないで。
俺は君に、ひどいことをしたり、しないから……」

そう言われて、セレイアは思った。

自分は、ディセルに怯えているのだろうかと。

(怯えるわけない)

ディセルが優しくて誠実な人であることは、一番一緒にいた自分が一番よく知っている。

つきんと胸が痛んだ。

こんなに誠実な人を、こんなに素敵な人を、自分は―――……

セレイアの口から、またしてもこの言葉が零れ落ちた。

「……ごめんなさい、ディセル……」

セレイアの胸を占めるのは、その一念なのだ。

想いに応えられないこと。

彼を避けてしまうこと。

けれどこうしてセレイアがこの言葉を言うたびに、ディセルにひどく傷ついたような表情をさせてしまう。

今もそうだ。

ディセルは辛そうに瞳を揺らし、ゆっくりとまばたいた。そのまばたきと共に涙が零れ落ちるのではないかと言うほど、彼は悲しげな表情をしていた。
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