麗雪神話~幻の水辺の告白~
シルフェは叫びたかった。

―何をやっているのあなたは!

彼の命を犠牲にして、生きながらえても、嬉しくなどないのに。

―何をやっているの私は!

こんなふうに人間に守られて。

神は、人間を守るものではなかったのか!

(ボリスを、守りたい…! お願い風よ、動いて…!!)

シルフェが心の底から強くそう、念じた時。

ぶわりと彼女の周囲で風が動いた。

それは突風となって、二人を囲んでいた兵たちを、放たれた矢もろとも吹き飛ばす。

「動い……た……?」

シルフェは思わず、呆然と自分の両手をみつめた。

ボリスは目を見張っていた。

「なんだ…? 今の風…?」

「ボリス! 私、力が戻ったわ!」

体中にみなぎるいつもの力に、そう確信する。

―風は私。風の声が聞こえる。

シルフェは風を動かし、軽々と宙に舞い上がると、ざっと風の刃を繰り出した。

シルフェの動きひとつで、生じた真空波がすっぱりと、周囲の木々をまとめてまっぷたつにする。
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