麗雪神話~幻の水辺の告白~
「ひ、ひぃぃっ」

「化け物だ……っ!」

兵たちは超常現象を目の当たりにして急にへっぴり腰になった。

「この樹と同じ目に遭いたくなかったら、去りなさい」

シルフェはなるべく厳かに言い放った。

怯えて彼らが逃げてくれるように。全員殺すことは簡単だったが、できるだけ、人を殺したくはなかったから。

その心配はいらなかった。兵たちは我先にと逃げ散っていった。

火を消さなければ、と振り返ったシルフェは愕然とした。

小屋はすでに、ほとんど焼け落ちていた…。

(大切な隠れ家が…ボリスの大事な本が!)

けれど今はそれよりも、大切なことがある。

「大丈夫? ボリス、怪我をしたでしょう」

うずくまっているボリスに駆け寄った。

「急所は外れてる…これくらい、平気、だ…うっ」

ボリスは腕に突き立った矢を自ら引き抜いた。

どくどくと血があふれる。

シルフェは自らの服の裾をちぎって、しっかりと彼の腕の止血をした。
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