麗雪神話~幻の水辺の告白~
消灯された部屋の中、月明かりに浮かぶボリスのきれいな瞳が思いのほか近くにあり、シルフェは一瞬どきりとした。

ボリスはその瞳にまっすぐシルフェを映しながら、言った。

「シルフェ、お前に、謝らなければならないことがある…」

「え…?」

「初めて会った時、俺はお前を利用するつもりだと言ったな。
それは、神として担ぎ上げることだけを意味していたのではなかったんだ。
俺は……狩猟祭の日、レコンダムをおびき寄せる餌とするため、お前を、生贄にしようとしていたんだ。公開処刑…血なまぐさい行事があれば、奴は必ず姿を現すと思った」

時が、止まったような気がした。

いや正確には、思考が止まったのだ。

ただ頭の中に、“生贄”という言葉が殷々と響き渡る。

シルフェは何も言うことができなかった。

驚いたわけではない。ボリスに意図があることなど、予想していた。ただ…ただ、ショックだった。ショックで、言葉が出なかった。

驚いたと言えば、そうかもしれない。それほどまでにいつのまにかボリスを慕っていた自分自身に、だ。
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