麗雪神話~幻の水辺の告白~
なぜだろう。

そう言った途端、シルフェの瞳に涙が溢れてきた。

伝わってきたボリスの想いが、その強さが、シルフェの中の何かをおかしくしてしまったのかもしれない。

ボリスのことは好きだ。

だがそれはあくまでも友人として、尊敬しているという意味の“好き”だ。

シルフェの恋情は、ずっと前からたった一人に捧げられている。

それはボリスと知り合った今も、変わらない。

それなのに、少しだけ、シルフェは自分がただの娘であったらよかったのにと思った。

(そうしたら、私はボリスのことを、きっと好きになってた……)

ボリスは何も言わなかった。

ただ強く強く、シルフェを抱きしめていた。

シルフェはそっと瞼を閉じて、ボリスの背中に手を回した。

ぽろりと彼女の頬から零れ落ちた涙を、見る者はなかった。
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