麗雪神話~幻の水辺の告白~
(ほかには何もない…そうよね)

深夜、隠れ家の外のベンチに腰掛け、月を見ながら何か切ない思いでいると、ボリスが家から出てきたのが見えた。

井戸に向かっているようだ。水を飲むのだろう。

今しかない、とシルフェには思えた。

シルフェは意を決して立ち上がり、ボリスを呼び止めた。

「ボリス」

彼の背中が動きを止める。

けれど、ボリスは振り返らなかった。

それはボリスが、まるで聞きたくないと頑なに告げているようだったが、それでもシルフェは言わなければならなかった。

「ボリス。
私は、天上界に帰らなければならないの。
狩猟祭の最終日には、仲間と合流して、天上界へ帰るわ」

「…………」

ボリスは何も言わない。

身じろぎひとつしないその背中を、シルフェは見つめて、懸命に言葉を継ぐ。

「だけどあなたには本当にお世話になったわ。
だから最後に、あなたの悲願を叶えてあげる。
私がこの力を使って、レコンダムを討つわ。
どうか立派な王になって…ボリス」
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