麗雪神話~幻の水辺の告白~
急に、ボリスの返事が怖くなったシルフェは、それだけ言うと家に向けて踵を返した。

今引き留められたら、自分が何を言い出すか、自分でもわからなかったのだ。

早足で歩き、扉に手を掛けたところで、突然肩をつかまれた。

びくりと、シルフェの体がはねる。

「!」

「…行くな」

低い囁きと共に、後ろから抱きすくめられた。

「行かないでくれシルフェ」

あまりにも苦しげな懇願に、胸が痛くなる。

そしてそのぬくもりに包まれていると、どうしようもなく切ない気持ちになる。

ボリスの想いが伝わって来てしまうからだ。

…けれど。

「ごめんねボリス…」

シルフェは風を使って、優しくボリスの腕を振りほどいた。

そしてそのまま扉を開け、自室に駆ける。

ボリスは、追っては来なかった。
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