麗雪神話~幻の水辺の告白~
ヴェインからすさまじい殺気が放たれ、サラマスとシルフェは思わず身を硬くする。

シルフェを守ろうと、サラマスはヴェインの正面にまわり、短剣を抜き放って構えた。

ヴェインも霧を凝縮させ、槍を生み出して構える。

レコンダムの兵たちは漂う殺気の鋭さに、完全に身動きがとれなくなっているようだ。

視線はヴェインに向けたまま、シルフェは声を張り上げた。

「ボリス! あなたは皇帝を討って!」

「…言われなくてもわかってる!」

ただちに返ってきた返事には、一切の余裕がなかった。

皇帝は手練れだ。だからこそ、ボリスは今まで暗殺に失敗してきたのである。

けれどボリスも手練れだ。きっと勝ってくれるだろうと、シルフェは思った。

シルフェは立て続けに三発、風の刃をヴェインへと放った。

鋭い風の刃は、うなりをあげてヴェインをまっぷたつにせんと襲いかかる。

しかし、ヴェインの手の一振りで、霧のシールドが生まれ、すべて弾き返されてしまった。

それでもシルフェは攻撃の手を休めない。

ちらりとサラマスに目配せするのも忘れなかった。

シルフェは再び、ヴェインの真正面から風の刃を放つ。

ヴェインは嘲笑した。

「まるでばかの一つ覚えだね。
そんな攻撃、僕には効かないのがわからないの?」

シルフェは何も答えなかった。

ただ風の刃を放ち続けた。
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