麗雪神話~幻の水辺の告白~
「旅人を受け入れていないのに…けっこう賑わっているんだね」

ディセルが意外そうにつぶやいた。

その声は小さい。

トリステアやアル=ラガハテス、サティエイトで話されている言語と、こちらの言語は似ているが違うもので、もしも声を拾われたら、すぐに旅人だとばれてしまうからだ。

だが、この賑わいでは、大した心配はいらなそうだ。

「帝国語を扱えることが条件で、商人たちの出入りは許しているみたいだからでしょうね。私たちも、商人に成りすましてここに来ればよかったかしら」

だが、売るものなど持っていないのも事実。

トリステアを出るとき関所を越えるために持って来た宝石類は、サティエイトでセレイアを救出するために、青プミール購入代として消えている。結局その子は売ることにしたので、今はいない。

言語も、セレイアだけなら帝国語を扱えるが、ディセル達は無理だ。

やはりこうしてこっそり侵入するしか方法はなかったであろう。

セレイアたちは大通りを抜け、木陰に身を隠しつつ、高い壁に囲まれた巨大な建物群へと向かって歩いた。

ラパスで見た神殿風の建物とそっくりな造りだが、もっと高さがあって大きい。そんな建物が、八つも並んでそびえている。

―あれがこの国の王宮。
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