麗雪神話~幻の水辺の告白~
「ちょっと! 何楽しそうにしてるの!」

ぷくっと頬を膨らませて登場したのは、桶に水を汲んできたシルフェ、風の神だ。

サラマスと同じく風を操れるだけでなく、風の神の特徴で、性別を自由に変えることができる。

旅の間はほぼ常にとってもかわいらしい少年の姿をしている。

この姿に、セレイアはまだちょっと慣れない。

出会った時、シルフェは美しくたおやかな女性の姿をしていたからだ。姿が変わると、言葉遣いも変わるので、そのせいもあるだろう。

「僕にも見せて! セレイアばっかりずるい」

そう言ってかわいい目で睨んでくる様子に、セレイアは苦笑する。

シルフェ、彼女は―彼は―、サラマスに想いを寄せているのだ。

だから彼が睨んでくるのは、嫉妬してのこと。

(私なんて美しさで言ったらシルフェの足元にも及ばないんだから、嫉妬なんてすることないのにね)

第一、彼らは神、セレイアは人間。

山より高い隔たりがある。

だからそんな感情が、芽生えるはずもない…――。

そう考えたら、胸にずきりと痛みが走った。

(…?)

気のせいだろう、とセレイアはその痛みを無視した。

「お前に見せてどうすんだ。驚きゃしないだろ」

「でも見たいんだもん! 見たいーっ」

「うるさい奴だな。セレイア、調理、そろそろ始めた方がいいぜ」
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