麗雪神話~幻の水辺の告白~
けれど、セレイアは平静を装った。

そして答えた。

「ええ、トリステアに帰るわ」

「そ、っか…そうだよ、ね」

どうしてそれで、ディセルが傷ついたような表情になるのだろう。

(ううん、それだけじゃない)

どうしてそれで、自分まで傷つくのだろう。

自分なんて、レコンダムの言う通り、彼ら神々の異能の力を利用して、なんらかの利益を得ている…だけかもしれないのに。

傷つくなんて、おこがましい。

ディセル達と共に旅をするのは、楽しかった。

姫巫女として神殿で勤務するのと、同じくらいに。

だからそうした利益を得るために、彼らを利用していると言われてしまえば、反論できない。

けれどそれも終いだ。

―もうすぐ、二人は別れる。

遠く隔たれ、きっと二度と会うことはない…。

この一年余り、あまりにも一緒にいすぎて、もう共にいないことなど想像できなくなっている。

それでも、それなのに。

彼は帰ってしまうのだ。故郷に。手の届かない、遠い場所に。

静かな夜が更けていく。

別れの時へ向けてまた一秒ずつ、時は進んでいくのだった。
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