麗雪神話~幻の水辺の告白~
「そ…んな…や、やめろ…」

「…ディセル!?」

「うああああっ!」

明らかに様子がおかしかった。

彼の身に何が起こっているか、ピンとくる。

(記憶がよみがえっているんだわ! でも、こんなに取り乱すなんて、一体どんな記憶が――)

「ディセル、しっかりして、ディセル!」

セレイアが肩を揺すぶっても、彼はしばらく呻き続けていた。そしてしばらくして静かになった頃、ディセルが顔を上げた。

「セレ、イア……」

「ディセル、大丈夫?」

大丈夫だ、と言おうとしたのだろう。

唇がわずかに動いて…その拍子に、彼の瞳から透明な涙がこぼれおちた。

セレイアは思わず息をのむ。

ディセルはわずかに顔を歪ませ、片手で顔を覆って泣き始めた。

「母上が……」

ディセルは嗚咽をこらえながら、セレイアにそう言った。

「母上が、殺されたんだ……」

「……っ!!」

彼が今、どんなに辛い記憶と格闘しているか、セレイアにははかり知ることができない。

けれどきっとそれは、セレイアがヴァルクスを喪った時に等しい衝撃に違いなかった。
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