麗雪神話~幻の水辺の告白~
砂糖菓子をやろうとしたところで、シルフェの手が伸びてきた。

「ちょっとちょうだい!」

「! だめよシルフェ。これはプミラの!」

「いいじゃないちょっとくらい。食後に甘いものが食べたいんだもの」

「だーめ!」

セレイアがシルフェの魔の手から必死に砂糖菓子を守っていると、不意に、

「私からお願いしても、だめかしら?」

と声色を変え、姿まで女性に変えて、シルフェがおねだりしてきた。

そう、この美しい女性と、セレイアは知り合ったのだ。

しかしほだされてはならない。

「だめなものはだめです」

断固として言うと、シルフェもやっと諦めてくれた。

その日の火の番は、月が真上に昇るまで、セレイアの役目だった。

このあたりには獰猛な獣もたくさん出るので、火の番は欠かせないのだ。

先に休んだ三人の寝息とぱちぱちとはぜる炎の音だけが聞こえる中、セレイアは静かに物思いにふけった。

ディセルと共に故郷の神聖王国トリステアを出て来てから、約十一か月。

姫巫女として雪の神であるディセルを護衛し、無事天上界へと送り届けるため、旅を続けてきた。その気持ちに、迷いはなかったはずだった。

それなのに、ようやっと天上界へと彼を返す方法がわかった今になって、セレイアは何かに迷い始めた。

何に迷っているのかも、自分ではよくわからない。

だから焦燥ばかりがつのっていく。

「…………」

見上げれば、紫紺の夜空には光のヴェールのように輝く満点の星々。

まるでセレイアの迷いを見透かすように、星々は光っている。
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