麗雪神話~幻の水辺の告白~
それからは、彼の想像をはるかに超える、幸せな日々が待っていた。

グレフは優しく、強かった。そして賢くて、機転がきいた。

ボリスがグレフに打ち解けるようになるまで、大した時間はかからなかった。

たくましいその体に憧れ、ボリスは体を鍛え、剣を学んだ。

その賢さに憧れ、彼から文字を学んで書物をひもといた。

時折グレフが語ってくれるこの国の未来の話に、ボリスは夢中になった。

戦争のない国。

誰もが平和で、笑っていられる国。

グレフなら、そんな国を創れると思った。

それでも彼のことを、「あんた」や「お前」や「グレフ」としか呼べなかった。

「父さん」と、呼べなかった。

『グレフ……と、と、う………』

ボリスがその言葉を捻りだそうとした時、グレフは笑ってボリスの唇をおさえた。

『無理して私を父と呼ばなくていい。
お前は本当の両親のことを、いつまでも大切にするといいさ』

『……でも』

『それならこうしよう。今日から私のことを、“師匠”と呼んでみては?』

『……ししょう』

『学問または武術、芸術の師、先生という意味だ。
ぴったりじゃないか?』

そう言って笑う穏やかな彼の瞳をみつめながら、その時ボリスは思った。

学問や武術や芸術、だけじゃない。

彼はきっと…自分の「人生」の師だと。

『はい! グレフ師匠!』
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