麗雪神話~幻の水辺の告白~
信じがたい訃報が、国中を震撼させた14年前のあの日。

“レコンダム、皇帝弑逆。”

己の力で無理やり帝位を奪ったレコンダムは、即位後すぐにグレフを追い落としにかかった。そもそも皇帝を弑逆したのも、グレフを押しのけ自分が確実に皇帝になるためだったのだろう。レコンダムのやり方は徹底しており、想像を絶した。

グレフの自宅は焼き討ちに遭い、グレフは家を失った。

さらにグレフを慕う友人たちを皆殺しにした。それも、一人、また一人と、じわじわいたぶるように殺していったのだ。

当然のことながら、次に狙われるのは養子のボリスだと、グレフにはわかっていただろう。

だからグレフは、夢も何もかもを捨てて、この国から出て行こうと決心していた。

ボリスを守るために。

ボリスだけは、なんとしても守るために。

頑として頷かなかったのは、ボリスだ。

『師匠、あなたの夢は、こんなところで諦めていいものじゃない!』

『だが、ボリス……』

この時グレフの言うことを聞いて国を出ていれば、きっと今でもまだ、グレフと共にいられたのだろう…。

そう思うと、今でも後悔の念が押し寄せることがあると、ボリスは苦い声音で語った。

けれど時間は過去には戻せない。

レコンダムの魔手に、ボリスはついに捕らわれてしまった。

そしてさんざん殴られ、蹴られ、ぼこぼこにされて、けれどまだかろうじて生きている、そんな状態のまま、グレフを呼び出す餌とされてしまったのだ。
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