麗雪神話~幻の水辺の告白~
「いいか、お前は神の化身だ。
お前ほど他を超越して美しければ、民も皆それを信じるだろう。とにかく神になりきるんだ、いいな」

「なりきるって言われても…僕、本当に神だから、ねぇ…まあいいよ。ひょっとして、ボリスに神の加護があるってことにして、支持を集めたいの?」

「なかなか賢いじゃないか。その通りだ。
人々は超常的な力にすがりたくなる時があるんだ。
お前が神の化身役をやってくれれば、あとは俺の話術でどうとでもしてみせる」

それでボリスが用意してきた衣装が、今シルフェが手に持つこれだ。

薄い羽衣のような布地を幾重にも重ねた、光の色のドレス。動くたび裾がふわりと広がるだろう、美しい品だ。

けれど…。

「ボリス、この服、女物だよね?」

「当たり前だろ。民衆はただの神より女神の方に、愛着がわくもんだ。母性を感じるからな。疲れた人々は母性を求めているものさ。何度も言うが、お前ほど美しければ、恰好さえなんとかすれば間違いなく女にも見える。さ、さっさと着ろ」

シルフェはなんとなくボリスの作戦に合点がいった。

シルフェが事実ただの人間であれば、人を騙すようで気が引けるが、シルフェは事実神。そして神であるシルフェが今、ボリスという男の成そうとしていることを応援し、味方についているのもまた事実。であれば、「神の加護」作戦も悪いものではない気がした。
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