本当のわたし
三木送り届けて、家路につく。

なんとなくだけど、家には帰らず駅のほうに向かって歩く。

サラリーマンや学生が電車に乗るために走っていたり、降りたりしているのをぼーと眺める。

中学生の頃は毎日のように使っていたこの駅。

俺がなぜあの家に住んでいるのか。

あそこは元々陸斗の家だった。
クソ女に引き取られてからも俺はよく陸斗が住むあの家に入り浸っていたんだ。

家に帰っても邪魔者扱いされるし、弟が生まれてから益々肩身が狭かったから陸斗の家にいつも逃げ込んでいた。

陸斗が有名になって長いこと海外にいく事が増え出した頃、合鍵をくれてそこからは陸斗がいないときに掃除とか洗濯をしてあげるようになった。

でも俺が中3になるちょっと前、とある雑誌のインタビュー記事にアトリエで絵を書く陸斗の姿が掲載されたのがきっかけで家が特定されてしまい引っ越しをすることなった。

陸斗は「いいきっかけだからもっと栄えているほうに引っ越すよ!」なんて相変わらずお人好しの顔で笑ってたっけな。

でもこの家がなくなるのが寂しくて、また1人ぼっちになるのが嫌でわがままを言ってしまったんだ。

「この家、俺にくれよ。」

当然だけど陸斗は困った顔をして反対した。

でも俺は諦めたくなくてこう言ったんだ。

「あのクソ女に聞いてみる。良いよって言ったら俺にこの家譲って。」

陸斗は流石にあれでも母親なんだから反対するだろうって思っていたんだと思う。
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